
インプラント治療は失った歯の機能を回復させる優れた治療法です。
インプラントは通常しっかり固定されていますが、なんらかの原因によってインプラントが取れるトラブルに見舞われるケースがあります。
いきなりインプラントが外れると、どうすればよいか分からず不安になってしまうでしょう。
この記事では、インプラントが取れる原因から応急処置の方法、歯科医院での治療法、費用まで分かりやすく解説します。
部位別│インプラントが取れる原因

インプラントは、見た目の歯となる上部構造(人工歯)、顎の骨に埋め込むインプラント体、2つをつなぐアバットメントという3つのパーツから構成されています。
どの部分が外れたかによって、原因や対処法が異なるため、まずは原因から見ていきましょう。
上部構造(人工歯)が取れる5つの原因
人工の歯である上部構造が取れてしまう原因は以下のとおりです。
- 接着セメントの劣化
- ネジの緩み
- 強い衝撃や過度な力
- 噛み合わせの不良
- 上部構造自体の破損
インプラントの上部構造は、セメントで接着するタイプとネジで固定するタイプがあります。
セメントタイプの場合、時間の経過とともに接着力が弱まることがあります。
また、硬いものを噛んだり、歯ぎしりや食いしばりの習慣があると、人工歯に過度な負担がかかり、外れやすくなります。
噛み合わせが適切でない場合も、特定の部分に力が集中し、取れる原因となります。
インプラント体が取れる原因
顎の骨に埋め込まれているインプラント体が取れてしまうのは大きなトラブルが起きている証拠だと言えます。
主な原因は以下のとおりです。
- インプラント周囲炎の重症化
- 骨とインプラント体の結合不全
- 過度な力による骨へのダメージ
- 全身疾患による骨の変化
インプラント体は本来、顎の骨としっかり結合しているものです。
しかし、インプラント周囲炎(インプラント周りの歯茎の炎症)が重症化すると、骨が溶けてインプラント体を支えられなくなります。
また、手術後に骨とインプラント体がうまく結合しなかった場合や、糖尿病などの全身疾患により骨の状態が変化した場合も、インプラント体が取れる場合があります。
アバットメントが取れる4つの原因
インプラント体と上部構造をつなぐアバットメントが取れる原因は以下のとおりです。
- ネジの緩みや破損
- インプラント周囲炎の進行
- 噛み合わせによる過度な負担
- アバットメント自体の劣化
アバットメントは小さなネジで固定されているため、長期間の使用により徐々に緩んでくることがあります。
特に、インプラント周囲炎が進行すると、土台部分が不安定になり、外れやすくなります。
また、噛み合わせが悪くなっており、インプラント部分に力がかかり続けると、ネジが破損したり、アバットメント自体が劣化したりすることもあります。
インプラントが取れたときの対処法5ステップ

インプラントが取れたら、慌てずに以下の5つの手順で対処しましょう。
ステップ1:取れたパーツを清潔に保管する
取れたインプラントのパーツを見つけたら、まず清潔に保管することが大切です。
保管方法は以下のとおりです。
- 水道水で軽くすすぐ(汚れている場合)
- 清潔な容器やジッパー付き袋に保管
- ティッシュで包むのは避ける(紛失の恐れあり)
取れたパーツは、状態が良ければ再利用できる可能性があります。
汚れている場合は軽く水ですすぎますが、強くこすったり洗剤を使ったりはしないでください。
保管する際は、プラスチック容器やジッパー付きの袋が適しています。
ティッシュに包むと、ゴミと間違えて捨ててしまう恐れがあるため避けましょう。
ステップ2:口内を清潔に保つ
インプラントが取れた部分の清潔を保つことは、感染予防のために非常に重要です。
以下の方法で口内を清潔に保ちましょう。
- うがい薬で口をゆすぐ
- 患部には直接触れない
- 歯磨きは優しく行う
殺菌作用のあるうがい薬を使って、1日3~4回程度口をゆすぎます。
患部は傷口になっている可能性があるため、指や舌で触らないよう注意してください。
歯磨きは通常どおり行いますが、患部周りは優しくブラッシングし、刺激を与えないようにします。
ステップ3:出血がある場合の止血方法
インプラントが取れた際に出血が見られる場合は、適切な止血処置が必要です。
- 清潔なガーゼを患部に当てる
- 10~15分程度軽く圧迫する
- 血が止まらない場合は早急に歯科医院へ
清潔なガーゼやティッシュを患部に当て、軽く噛んで圧迫します。
強く噛みすぎると逆効果になるため、適度な力で行います。
15分程度圧迫しても血が止まらない場合や、大量の出血がある場合は、すぐに歯科医院を受診してください。
ステップ4:痛みがある場合の対処
インプラントが取れた後に痛みを感じる場合の対処法は以下のとおりです。
- 市販の鎮痛剤を服用
- 冷たいタオルで頬の外側から冷やす
- 患部で噛まないようにする
痛みが強い場合は、市販の鎮痛剤を服用しても構いませんが、説明書に記載された用法・用量を守りましょう。
また、頬の外側から冷たいタオルや保冷剤を当てると、痛みや腫れを軽減できます。
食事の際は、患部と反対側の歯で噛むようにしましょう。
ステップ5:歯科医院への連絡と伝えるべきポイント
応急処置が済んだら、速やかに歯科医院に連絡しましょう。連絡する際は、以下の情報を正確に伝えることが重要です。
- いつ取れたか
- どの部分が取れたか
- 痛みや出血の有無
- 取れた原因(分かる範囲で)
- 保管しているパーツの状態
これらの情報を詳しく伝えることで、歯科医院側も適切な準備ができ、スムーズな治療につながります。
特に、いつ取れたかという時間的な情報は重要で、取れてから時間が経つほど治療が難しくなる可能性があります。
放置せず、可能な限り早めに歯科医院を受診しましょう。
インプラントが取れた時にしてはいけない5つのこと

インプラントが取れた際、誤った対処をすると状況を悪化させる可能性があります。
以下の行為は避けましょう。
自分で元に戻そうとする
自分でインプラントを元に戻そうとすることは、以下の理由から非常に危険です。
不衛生な状態で患部に触れると、細菌感染のリスクが高まります。
また、正しい位置や角度で装着できず、インプラント体や骨を傷つける可能性があります。
専門的な知識と技術、滅菌された器具が必要な処置のため、必ず歯科医院で行ってもらいましょう。
接着剤を使う
接着剤には人体に有害な成分が含まれており、口内で使用すると中毒症状を起こす可能性があります。
また、接着剤が固まってしまうと、歯科医院での治療が困難になり、インプラント自体を除去しなければなりません。
取れた部分での食事をする
インプラントが取れた部分での食事は避けましょう。
患部で噛むと、露出した組織を傷つけたり、残っているインプラントの部品を破損させたりする可能性があります。
また、食べかすが患部に入り込むと、感染症を生じるかもしれません。
食事は反対側の歯で行い、硬いものや粘着性のあるものは避けるようにしましょう。
治療せずに放置する
インプラントが取れたまま放置すると、隣の歯が傾いてきて歯並びが変わったり、噛み合う相手の歯が伸びてきたりして口内を傷つけたりすることがあります。
また、インプラントがない部分の骨が徐々に痩せていき、再治療が困難になる可能性もあります。
インプラントが取れた場合は放置せず、早めに歯科医院を受診しましょう。
患部を指や舌で触る
手には多くの細菌が付着しており、傷口から細菌が侵入すると、感染症を引き起こす可能性があります。
また、舌で触ることで唾液中の細菌が患部に付着し、炎症を悪化させることもあります。
どうしても気になる場合は、鏡で見るだけにとどめ、触らないようにしましょう。
部位別│インプラントが取れたときの治療法

インプラントが取れた場合の治療法は、どの部分が取れたか、破損の程度、保証期間内かどうかなどによって異なります。
ここでは、一般的な治療法をご紹介します。
上部構造が取れた場合
上部構造が取れた場合の治療法は以下のとおりです。
- 再装着(破損なしの場合)
- 新しい上部構造の製作(破損ありの場合)
- 噛み合わせの調整
上部構造に破損がなければ、清掃・消毒後に再装着することができます。
しかし、破損している場合は新しく作り直さなければなりません。
また、取れた原因が噛み合わせにある場合は、同時に噛み合わせの調整も行います。
アバットメントが取れた場合
アバットメントが取れた場合の治療法は以下のとおりです。
- ネジの締め直し
- 新しいアバットメントへの交換
- インプラント体の確認
ネジが緩んだだけであれば、締め直すことで対応可能です。
しかし、ネジが破損していたり、アバットメント自体が劣化している場合は、新しいものに交換する必要があります。
インプラント体が取れた場合
インプラント体が取れた場合の治療法は以下のとおりです。
- インプラント周囲炎の治療
- 骨造成手術
- 再インプラント手術
インプラント体が取れた場合は、先に原因となった病気の治療が必要です。
インプラント周囲炎が原因の場合は、炎症を抑える治療を行います。
骨が不足しているのであれば、場合によっては骨を増やす手術(骨造成)が必要です。その後、状態が安定したら再度インプラント手術を行います。
再治療後にインプラントが取れないようにする予防法

インプラントの再治療後は、同じトラブルを繰り返さないように予防が大切です。
ここでご紹介する内容を参考に、インプラントが再び取れないようにしましょう。
→インプラントの平均寿命は?長持ちさせる方法やNG習慣・再手術について解説
3〜6ヶ月に1回の定期メンテナンス
インプラントを長持ちさせるためには、3~6ヶ月に1回の定期メンテナンスが欠かせません。
定期メンテナンスで以下のことを確認します。
- インプラント周囲の歯茎の状態(色、腫れ、出血の有無)
- ネジの緩み具合
- 噛み合わせのバランス
- 清掃状態のチェック
- レントゲンでの骨の状態(年1回程度)
メンテナンスでは自分では取り除けない汚れを除去することができ、早い段階での問題発見にもつながります。
特に歯茎の変化やネジの緩みは、早めに対処すれば簡単な処置で済むことがほとんどです。
メンテナンスを怠ると問題が大きくなり、大がかりな治療が必要になる可能性があるため、定期的なメンテナンスが大切になります。
歯磨きとフロス
歯科医院でのメンテナンスは重要ですが、毎日の自宅でのケアも大切です。
- 歯ブラシ:柔らかめのブラシを使用
- 歯磨き粉:研磨剤の少ないものを選ぶ
- フロス:インプラント用フロスを使用
- 洗口液:殺菌作用のあるものを使用
インプラントの周りは特に丁寧に清掃しましょう。歯ブラシは45度の角度で当て、歯と歯茎の境目を優しくブラッシングします。
歯間ブラシやフロスを使って、歯と歯の間も綺麗にしましょう。洗口液の使用は、就寝前がおすすめです。
歯ぎしりや食いしばり、喫煙を避ける
歯ぎしりや食いしばりは、睡眠中に無意識に行うことが多いため、マウスピースでインプラントを守りましょう。
また、喫煙は血流を悪化させ、インプラント周りの組織の健康を損なうため、できるだけ禁煙することが望ましいです。
硬い食べ物・粘着性のある食べ物に気をつける
インプラントに負担をかけない食生活を心がけることも重要です。
- 避けるべき食べ物:氷、硬い飴、するめ、フランスパンの皮など
- 注意が必要な食べ物:キャラメル、ガム、餅など粘着性の高いもの
硬すぎる食べ物は、インプラントに負荷をかけ、破損の原因となるためできるだけ避けることが推奨されます。
また、粘着性の高い食べ物は、上部構造を引っ張る力が働き、外れる原因となることがあるため注意が必要です。
インプラントが取れた場合のよくある質問

インプラントが取れた際によくある質問について、詳しくお答えします。
Q1:インプラントが取れたまま放置するとどうなりますか?
放置すると、隣の歯が傾いてきて歯並びが崩れ、噛み合う歯も伸びてきて噛み合わせが乱れる可能性があります。
また、インプラントがあった部分の骨が痩せ、もう1度インプラントを入れたいと思っても再治療が難しくなることもあります。
感染症になるリスクも高まるため、放置せずに早めに受診することが大切です。
Q2:別の歯科医院でもインプラントの再治療はできますか?
別の院での再治療は可能です。
ただし、使用したインプラントのメーカーと型番を取り扱っていることが前提になります。
新しい歯科医院には、メーカー名、型番、治療時期、保証書やレントゲン写真を持参して治療可能かを相談するとよいでしょう。
前の医院から紹介状をもらえばよりスムーズです。ただし、保証は引き継がれないことが多いので注意が必要です。
まとめ
インプラントが取れる原因は、上部構造の接着セメントの劣化やネジの緩み、インプラント周囲炎の重症化など、取れた部位によって異なります。
インプラントが取れた時は、パーツを清潔に保管し、口内を清潔に保ちながら早めに歯科医院に連絡することが大切です。
自分で元に戻そうとしたり、接着剤を使ったりするのは、感染症や中毒症状を引き起こす危険があるため避けましょう。
インプラントが取れた場合は早めの受診が大切です。
下高井戸パール歯科クリニック・世田谷では、インプラント専門医が迅速かつ適切な対処を行っています。
インプラントが取れてしまった場合は、ぜひ早めに受診してください。