
近年、人生100年時代を迎え、高齢になっても健康で充実した生活を送りたいと考える方が増えています。
そんな中、歯を失った際の治療法として、インプラントを検討する高齢者の方は少なくありません。
しかし、「自分の年齢でインプラント治療は可能なのか」「リスクはないのか」といった不安を抱える方も少なくないでしょう。
本記事では、高齢者のインプラント治療において必要な条件やリスク、成功のポイントまで解説します。
高齢者でもインプラント治療は受けられる?年齢制限は?

インプラント治療に年齢の上限はなく、高齢者の方でもインプラント治療は受けられます。
重要なのは年齢そのものではなく、健康状態です。
70代、80代でも条件が整えばインプラント治療を受けることができ、実際に多くの方が治療を受けて生活の質を向上させています。
令和4年の厚生労働省の調査によると、インプラント装着者の割合は70~74歳が最も多く5.9%、次いで80~84歳が4.9%、続いて60~64歳が4.5%となっており、高齢者層が上位を占めています。
20歳未満の方に関しては、顎の骨がまだ成長途中で、顎の成長に伴って位置がずれたり、骨の成長を妨げる可能性があるためインプラント治療は受けられません。
しかし高齢者の方の場合は骨の成長が完了しているため、年齢そのものが制限になることはないのです。
ただ、高齢になるほど持病を抱える方が増え、体力や治癒力が低下する傾向があります。
そのため、インプラント治療できるかどうかは、個々の健康状態を確認したうえで判断する必要があります。
→インプラント治療は何歳から何歳まで?年齢制限や年代別の注意点を解説
高齢者がインプラント治療を受けるための4つの条件

高齢者の方がインプラント治療を受けるには、次の4つの条件を満たす必要があります。
条件①持病が無いこと(または管理されていること)
インプラント治療は外科手術を伴うため、全身の健康状態が治療に大きく影響します。
特に以下の病気がある場合は、注意が必要です。
- 高血圧:局所麻酔薬の使用に制限がある
- 糖尿病:傷の治りが悪く感染リスクが高い
- 骨粗しょう症:骨とインプラントの結合に時間がかかる
- 心疾患:手術時の身体への負担がかかる
ただし、上記の病気があっても、きちんとコントロールできていればインプラント治療が受けられる場合もあります。
たとえば糖尿病の場合はHbA1cが7.0%以下にコントロールされていれば治療可能と判断されることがあります。
上記に該当する病気をもっているけれど、インプラント治療を検討している方は、まず歯科医師と主治医に相談しましょう。
条件②口内の状態がよい
インプラント治療を成功させるには、口内の状態が良好である必要があります。
特に歯周病がある場合、インプラント周囲炎の原因となるため先に歯周病を治療しなければなりません。
他にも以下のような条件をクリアする必要があります。
- 歯周ポケットが3mm以下に改善されていること
- 歯茎からの出血や膿がないこと
- プラークコントロールができており、歯垢の付着が少ないこと
- 残っている歯に大きな虫歯がないこと
条件③服薬していない、または調整可能
高齢になると、持病で日常的に薬を服用している方も多くなりますが、以下の薬は特に注意が必要です。
- 抗凝固薬(血液サラサラの薬)
- ビスホスホネート製剤(骨粗しょう症の薬)
- ステロイド薬
抗凝固薬は手術時の出血が止まりにくくなり、ビスホスホネート製剤は顎骨壊死のリスクがあります。
服薬中の方は歯科医師に申告し、主治医と相談のうえ、薬の調整が可能かの検討が必要です。
条件④メンテナンスが継続できる体力がある
インプラントは入れたら終わりではありません。
長期的に使用するためには、定期的なメンテナンスが必要不可欠です。
メンテナンスには、自宅での丁寧な歯磨きと歯科医院での定期検診の両方が含まれます。
メンテナンスを続けられるかも考慮し、インプラント治療を受けるかどうか決めましょう。
高齢者のインプラント治療におけるリスクと注意点

高齢者の方のインプラント治療では、リスクと注意点があります。
細菌感染のリスクが高い
加齢により免疫力が低下するため、手術後の感染リスクが高まります。
また、唾液の分泌量が減少することで口内が乾燥し、細菌が繁殖しやすくなります。
対策として、手術前後の口内のケアを徹底し、抗菌薬を適切に服用することが大切です。
インプラントが骨と結合するまで時間がかかる
高齢者の方は骨の代謝が低下しているため、インプラントと骨が結合(オッセオインテグレーション)するまでの期間が長くなる傾向があります。
通常3~6か月のところ、さらに時間がかかる場合があります。
将来介護が必要になった時の対策が必要
将来的に、認知症や身体機能の低下により、自分でケアができなくなる可能性があります。
その際のことを考慮し、以下の対策を検討しましょう。
- インプラントの情報(メーカー、型番など)を記録し、家族と共有する
- 取り外し可能なインプラントを選ぶ
- 訪問診療に対応している歯科医院を選ぶ
インプラントのメーカー名、サイズなどがわからなくなると、もし別の歯科医院への通院が必要になった場合、メンテナンスが受けられなくなってしまうリスクがあります。
また、介護施設に入所する際には、施設の協力歯科医院がインプラントのメンテナンスに対応できるか事前に確認しておくことも大切です。
高齢者がインプラント治療を受けるメリット・デメリット

高齢者の方がインプラント治療を受けることには、メリットもデメリットもあります。
それぞれ見ていきましょう。
メリット
インプラント治療には、高齢者の方の生活の質を大きく向上させる多くのメリットがあります。
- しっかり噛める:天然歯の80%程度まで噛む力を取り戻せる
- 栄養状態の改善:硬い食べ物も食べられる
- 見た目の自然さ:入れ歯のように金具が見えず天然の歯のような仕上がりにできる
- 発音の改善:サ行、タ行を発音しやすくなる
- 認知症予防:よく噛むことで脳への刺激が増加する
- 顎骨の吸収防止:骨の痩せを防ぐ
- 隣の歯を守る:健康な歯を削る必要がない
日本歯科医師会によれば、20本以上歯がある人と比較した際、歯をほとんど失い義歯も使っていない人は認知症リスクが1.9倍高いと報告されています。
デメリット
一方で、以下のようなデメリットも理解しておく必要があります。
- 手術のリスク:術後の腫れや痛みが数日続く
- 治療期間が長い:数か月から半年以上
- 高額な費用:保険適用外で1本30~50万円程度
- 継続的なメンテナンスが必要:3~6か月ごとの定期検診
- 失敗のリスク:骨との結合がうまくいかない場合がある
- 全身疾患の影響:持病の悪化でメンテナンスが困難になる可能性
- MRI検査への影響:古いタイプのインプラントの場合
このように、インプラント治療には費用面や身体的な負担などのデメリットがあります。
しかし、適切な歯科医院選びや事前の対策によってリスクを抑えることが可能です。
高齢者でインプラント治療を受ける際の歯科医院選びのポイント

高齢でインプラント治療を受ける場合、以下のポイントを重視して歯科医院を選びましょう。
高齢者の治療実績が豊富な医院を選ぶ
高齢者の方特有の課題に対応できる経験豊富な医師がいる医院を選ぶことが重要です。
症例数や実績を確認し、高齢者の方に対する治療に慣れているか確認しましょう。
具体的な確認ポイントは以下のとおりです。
- 高齢者の方へのインプラント治療実績
- 持病がある患者さんへの対応経験
- 医科との連携体制(内科医、歯科麻酔医との協力)
- 高齢者の方に配慮した診療体制(バリアフリー、車椅子対応など)
また、カウンセリングの際に、治療の流れやリスクについて丁寧に説明してくれるか、質問に対して分かりやすく答えてくれるかも一つの判断材料となります。
最新設備と骨造成などの高度な技術に対応できるか確認する
CTやコンピューターガイドシステムなど、最新の設備を備えた医院は、精密な検査と治療が可能です。
歯科用CTで事前に骨の状態を3次元的に把握し、コンピューターガイドシステムを使用することで、神経や血管を避けながら正確な位置にインプラントを埋入できます。
また、骨量が不足している場合の骨造成術に対応できるかも重要なポイントです。
高齢になると骨密度が低下し、インプラントを支える骨の量が不足しているケースが多くなります。
そのため、GBR(骨誘導再生法)やソケットリフト、サイナスリフトといった骨造成術も可能な歯科医院を選ぶことが大切です。
訪問診療などアフターケア体制が整っているか確認する
将来的に通院が困難になった場合を考慮し、訪問診療に対応している医院や、長期的なフォローアップ体制が整っている医院を選ぶことが大切です。
アフターケアの体制が整っているかを確認するポイントは以下のとおりです。
- 定期メンテナンスの頻度と内容
- 訪問診療の対応可否と範囲
- 緊急時の対応体制
- 保証制度の有無と内容
- 他院との連携体制(転居時の紹介など)
インプラントのメーカー選びも重要です。
世界的に実績のあるメーカー(ストローマン、ノーベルバイオケア、オステムなど)を使用している医院なら、将来的に他院でもメンテナンスを受けやすくなります。
高齢者のインプラント治療に関するよくある質問

高齢者の方のインプラント治療に関するよくある質問をまとめました。
Q1:何歳までインプラント治療は可能ですか?年齢制限はありますか?
年齢に上限はなく、体と歯が健康であれば治療可能です。
手術に耐えられる体力があるか、持病が適切にコントロールされているか、術後のケアを継続できるか、家族のサポートが得られるかなどから総合的に判断されます。
Q2:持病があっても治療できますか?
持病があっても、コントロールできていれば治療可能な場合があります。
糖尿病の場合はHbA1cが7.0%以下で安定していること、高血圧の場合は降圧薬で血圧がコントロールされていること、心疾患の場合は症状が安定し主治医の許可があること、骨粗しょう症の場合はビスホスホネート製剤を休薬できることが治療可能な目安となります。
Q3:費用を抑える方法はありますか?
インプラント治療は基本的に保険適用外ですが、医療費控除や分割払い、デジタルローンなどの活用で費用を抑えられる可能性があります。
医療費控除を活用すれば、年間の医療費が10万円を超えた場合に確定申告で税金の還付を受けられます。
また、多くの歯科医院では分割払いやデンタルローンに対応しており、月々の負担の軽減が可能です。
住んでいる地域によっては高齢者の方向けの歯科治療助成制度があり、条件を満たせば利用できる場合もあるため一度確認してみるとよいです。
まとめ
インプラント治療に年齢の上限はなく、健康状態が良好であれば70代、80代でも治療可能です。
実際、インプラント装着者は全世代で見て高齢者層が最も多くなっています。
ただし高齢者の方がインプラント治療を受けるには、持病がコントロールされていること、口内の状態が良好なこと、服薬の調整が可能なこと、メンテナンスを継続できる体力があることが条件となります。
高齢者の方のインプラント治療を成功させるには、経験や実績が豊富な歯科医院選びが重要です。
下高井戸パール歯科クリニック・世田谷では、口腔外科専門医が新しいCT設備による精密な診断のもと、健康状態に配慮した治療を行っています。
また、バリアフリー構造で車椅子にも対応しており、個室診療室でゆったりと治療を受けていただけるため、高齢者の方も安心してご相談ください。