
親知らずがあり、口開けるたびに顎が痛いといった症状がある方は、親知らずが原因である可能性があります。
食事の際や大きくあくびをしたとき、歯磨きのときなど、事あるごとに顎が痛み、日常生活に支障をきたし、つらい思いをしている方もいるでしょう。
そこでこの記事では、親知らずで顎が痛くなる理由から、自宅でできる応急処置、歯科医院での治療法まで詳しく解説します。
痛みがある場合は放置せず、早めに適切な対処を取りましょう。
親知らずで顎が痛い理由とは

親知らずが原因で顎に痛みが生じる場合、以下の理由が考えられます。
- 顎関節症:顎関節に負担がかかることで起こる
- 智歯周囲炎(ちししゅういえん):親知らず周囲の歯ぐきが炎症を起こす
それぞれ解説していきます。
顎関節症:顎関節に負担がかかることで起こる
親知らずが斜めに生えていたり、横向きに埋まっていたりすると、噛み合わせのバランスが崩れて顎関節に過度な負担がかかり、顎関節症を引き起こすことがあります。
顎関節症の主な症状は以下のとおりです。
- 口を開けるときに顎がガクガクと音がする
- 大きく口を開けられない
- 顎の関節部分に痛みがある
- 食事中に顎が疲れやすい
特に親知らずの生え方が悪い場合、無意識のうちに偏った噛み方をしてしまい、片側の顎関節に負担が集中することで症状が悪化しやすくなります。
智歯周囲炎:親知らず周囲の歯ぐきが炎症を起こす
親知らずは奥に生えるため、歯ブラシが届きにくく汚れがたまりやすい場所です。
特に部分的にしか生えていない親知らずや、斜めに生えている親知らずの周りは、食べかすや細菌が入り込みやすくなります。
こうした状態が続くと、親知らずの周りの歯茎に炎症が起こる『智歯周囲炎』が生じます。
智歯周囲炎の主な症状は以下のとおりです。
- 親知らず周辺の歯茎が赤く腫れる
- 触ると痛みがある
- 膿が出ることがある
- 口臭が強くなる
- 喉の方まで痛みが広がることがある
炎症がひどくなると、顎にも痛みが広がり、口を開けるのも困難になることがあります。
親知らず以外にも顎が痛い時に疑うべき3つの原因

親知らず以外にも顎の痛みを引き起こす原因はあります。
虫歯の進行や噛み合わせの問題、日常生活のストレスなど、複数の要因が重なって症状が現れることも少なくありません。
ここでは、親知らず以外で顎が痛くなる主な原因を解説します。
虫歯の進行による顎骨骨髄炎
親知らず自体の虫歯や、親知らずに隣り合う歯が重度の虫歯になると、細菌が歯の根元から顎の骨に入り込むことがあります。
顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん)と呼ばれ、顎全体がズキズキと痛み、発熱を伴うのが特徴です。
顎骨骨髄炎になると抗菌薬の投与だけでなく、外科的な処置が必要になる場合もあるため、早めの治療が必要です。
→虫歯を確かめる方法は?自宅でできる簡単チェックと歯科医院での検査を徹底解説
噛み合わせの悪化
親知らずが原因で歯並びが乱れたり、親知らずを抜歯した後に噛み合わせのバランスが崩れたりすることがあります。
噛み合わせが悪くなると、食事の際に特定の歯や顎の一部に過度な力がかかり、顎関節や筋肉に痛みが生じます。
また、片側だけで噛む癖がある場合も注意が必要です。
使っている側の顎に負担が集中するため、慢性的な痛みにつながる可能性があります。
ストレスや生活習慣
ストレスによる歯ぎしりや食いしばりも顎の痛みが出る一つの原因です。
睡眠中の歯ぎしりや食いしばりは無意識に起こり、顎関節に大きな負担をかけます。
また、以下のような生活習慣も顎の痛みを引き起こす原因となります。
- 頬杖をつく癖
- うつ伏せで寝る習慣
- 猫背などの姿勢の悪さ
- 硬い食べ物を好む
- ガムを長時間噛む習慣
習慣になると自覚が難しいため、この機会に上記の行動をとっていないか確認してみるとよいでしょう。
親知らずが原因で顎が痛いときの治療法

親知らずによる顎の痛みを根本的に解決するには、原因に応じた適切な治療が必要です。
具体的には、以下のような治療が行われます。
- 親知らずの抜歯
- 保存治療
- 薬物治療
それぞれの治療法について詳しく解説します。
親知らずの抜歯
親知らずが顎の痛みの直接的な原因となっている場合、抜歯が第一に検討されます。
抜歯が推奨される状態としては、下記のとおりです。
- 親知らずが斜めや横向きに生えている
- 部分的にしか生えておらず、清掃が困難
- 繰り返し炎症を起こしている
- 隣の歯を圧迫し、歯並びに影響を与えている
- 虫歯が進行し、治療が困難
抜歯により、炎症の原因を根本から取り除くことができ、顎の痛みも解消されます。
保存治療
すべての親知らずが抜歯の対象になるわけではありません。まっすぐ生えていて、適切に清掃できる親知らずは残すことも可能です。
この場合、以下のような保存的治療を行います。
- クリーニングで汚れの除去
- 歯周ポケットの洗浄
- 噛み合わせの調整
- ブラッシング指導
ただし、保存治療で改善が見られない場合や、繰り返し炎症を起こす場合は、最終的に抜歯を検討することになります。
薬物治療
炎症がある場合、薬物治療で症状を落ち着かせることが大切です。
理由としては、炎症が強い時期に無理に抜歯を行うと、麻酔が効きにくかったり、術後の回復が遅れたりすることがあるためです。
細菌感染を抑える抗菌薬、痛みと炎症を軽減する消炎鎮痛薬、口の中を清潔に保つうがい薬などで炎症を抑えてから次の治療に進みます。
顎関節症を併発している場合の治療

親知らずが原因で顎関節症を併発している場合は、抜歯だけでなく顎関節症自体の治療も必要です。
顎関節症に対しては、以下のような治療を組み合わせて実施します。
- マウスピースによる矯正治療
- ボトックス注射で筋肉の緊張を緩和
- 薬物治療による痛みのコントロール
- マニピュレーション法で関節を正しい位置に
ここでは代表的な治療法を紹介します。
マウスピースによる矯正治療
顎関節症の治療で一般的なのはマウスピース(スプリント)治療です。
就寝中にマウスピースを装着することで、歯ぎしりや食いしばりから顎関節を守り、正しい顎の位置に誘導します。
治療期間は通常3〜6ヶ月程度で、顎関節の状態が安定するまで継続が必要です。
多くは夜間のみの装着で効果が期待できますが、日中も使用が必要になることもあります。
ボトックス注射で筋肉の緊張を緩和
咬筋(こうきん)と呼ばれる噛む筋肉が過度に発達している場合、ボトックス注射が有効です。
ボツリヌス菌の作用により筋肉の緊張を和らげ、顎関節への負担を減らします。
効果は注射後数日〜1週間程度で現れ、3〜6ヶ月ほど持続しますが、継続的な効果を得るには繰り返しの治療が必要です。
薬物治療による痛みのコントロール
顎関節症の痛みに対しては、以下のような薬剤が使われます。
- 消炎鎮痛薬:痛みと炎症を抑える
- 筋弛緩薬:筋肉の緊張を和らげる
- 抗不安薬:ストレスによる症状を軽減
薬物療法は対症療法で、根本的な原因の解決にはなりませんが、痛みをコントロールしながら他の治療を進めることができます。
マニピュレーション法で関節を正しい位置に
顎関節の中にはクッションの役割をする軟骨(関節円板)があります。
マニピュレーション法は、ズレた関節円板を手技によって正しい位置に戻す治療法です。
歯科医師が患者さんの顎を適切に誘導し、関節円板を正常な位置に整復します。
ただし、すべてのケースで実施できるわけではありません。
親知らずによる顎の痛みを和らげる6つの応急処置

歯科医院を受診するまでの間、自宅でできる応急処置は以下のとおりです。
- 患部を正しく冷やして炎症を抑える
- 痛み止めを使う
- 柔らかい食事で顎を休ませる
- 優しいブラッシングできれいにする
- 湯船につかるのを避けてシャワーで済ませる
- 顎に負担をかける動きを控える
一時的に痛みを和らげるものですが、適切に行うことで症状の悪化を防ぎ、日常生活への影響を抑えることができます。
ただし、あくまで応急処置であるため、歯科医院で診察と治療を受けることが大切です。
患部を正しく冷やして炎症を抑える
炎症が強く、患部が熱を持っている場合は冷やすことで痛みを落ち着かせることができます。
正しい冷やし方としては、まず清潔なタオルに氷水を含ませるか、保冷剤をタオルで包み、痛みのある頬の外側から10〜15分程度冷やしましょう。
冷やしすぎを避けるため20分以上は続けないようにし、再度冷やす場合は1時間以上間隔をあけて繰り返します。
冷やしすぎると血流が悪くなり、かえって回復を遅らせることがあるため注意が必要です。
痛み止めを使う
市販の鎮痛薬でも痛みを和らげることができます。
痛み止めを効果的に使うには、痛みが強くなる前に服用することが大切です。
用法・用量を守り、空腹時を避けて服用しましょう。
効果が不十分な場合は無理に我慢せず、歯科医院を受診してください。
→親知らずの痛み止めの種類は?痛みが生じる原因と悪化を防ぐ方法も解説
柔らかい食事で顎を休ませる
顎に負担をかけないよう、以下のような柔らかい食事を心がけましょう。
おかゆや雑炊、豆腐料理、煮込んだ野菜、ヨーグルトやプリン、スープや味噌汁などがおすすめです。
硬い食べ物や、極端に熱い・冷たい・辛い食べ物は避け、顎を安静に保つことが大切です。
優しいブラッシングできれいにする
顎に痛みがあっても口の中を清潔に保つことは大切です。
ブラッシングのポイントとして、柔らかめの歯ブラシを使用し、患部を優しく小刻みに磨きます。
さらに、うがい薬を併用して殺菌効果を高め、歯間ブラシやフロスも活用して細かい部分の汚れも取り除きましょう。
痛みを理由に歯磨きを怠ると、さらに炎症が悪化する可能性があります。
湯船につかるのを避けてシャワーで済ませる
入浴により体温が上昇すると血行が良くなり、炎症部位の痛みが増すことがあります。
痛みが強い時期は、シャワーで済ませることをおすすめします。
また、激しい運動やアルコールの摂取も血行を促進させるため、炎症が治まるまでは控えましょう。
顎に負担をかける動きを控える
日常生活で無意識に行っている以下の動作を控えることで、顎への負担を軽減できます。
大きく口を開ける動作(あくびも注意)、頬杖をつく、うつ伏せで寝る、ガムを噛む、硬いものを無理に噛むなどは避けましょう。
意識的に顎を安静に保つことで、痛みの悪化を防ぐことができます。
抜歯後の顎関節症を予防する方法

親知らずの抜歯をした後は、注意しなければ噛み合わせが乱れてしまうことがあります。
噛み合わせの乱れから顎関節症になるのを防ぐために、以下の点に注意しましょう。
- 両側でバランスよく噛む
- 抜歯した側を過度にかばいすぎないようにする
- 定期的に噛み合わせをチェック
- 違和感があれば早めに相談
抜歯後は無意識に片側だけで噛んでしまいがちですが、意識的に両側を使い、歯科医院で定期的に噛み合わせをチェックすることで顎への負担を減らすことが可能です。
親知らずによる顎の痛みに関するよくある質問

親知らずによる顎の痛みに関するよくある質問をまとめました。
Q1:親知らずで顎が痛いのを放置したらどうなりますか?
親知らずによる顎の痛みを放置すると、炎症が周囲に広がり顔が大きく腫れたり、口が開かなくなったりする可能性があります。
さらに、原因によっては隣の健康な歯まで虫歯や歯周病になるリスクが高まり、慢性的な顎関節症に発展することも少なくありません。
最悪の場合、炎症が深部に広がって蜂窩織炎や敗血症などの命に関わる合併症を引き起こす可能性もあります。
痛みを我慢せず早めに歯科医院で診察を受けることが大切です。
Q2:親知らずで顎が痛いとき、市販の痛み止めは効きますか?
市販の鎮痛薬でも親知らずによる顎の痛みを和らげる効果が期待できます。
ただし、市販の鎮痛薬を飲んでも効果がない場合は、炎症が重症化している可能性が高いため、我慢せずに歯科医院を受診しましょう。
痛み止めはあくまで一時的な対処法なので、根本的な治療が必要です。
まとめ
親知らずによる顎の痛みは、放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
応急処置で一時的に痛みを和らげることはできますが、根本的な解決には専門的な治療が必要です。
もし今、親知らずによる顎の痛みで悩んでいるのなら、ぜひ下高井戸パール歯科クリニック・世田谷にご相談ください。
当院では口腔外科専門医が在籍しており、親知らずの抜歯が必要な場合でも、安全に配慮した治療を行い、抜歯せずに済む場合は保存的な治療法を提案します。
顎の痛みで悩んでいる方は一人で悩まず、まずは当院にご相談ください。
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